今年の夏、DIC川村記念美術館が2025年1月末で閉館すると発表され、美術関係者を驚かせました。(その後の発表で、閉館が3月下旬になると閉館が2カ月延期されました)
私も、このニュースを聞いたときは非常に驚きました。
川村記念美術館は、近年ずっと赤字が続いていたようですし、クラウドファンディングで9億円以上集めて話題になった国立科学博物館も資金難からの方策でした。このように美術館・博物館の運営は厳しい状況にあるわけです。こうした事情は、日頃から美術館のPRに携わっているため、私も肌感覚で実感していたことです。
同館の経営母体であるDICは、経営を進める上で川村記念美術館の美術資産をうまく活用できておらず、今後も状況が好転することはないと判断したのでしょう。会社の経営は、様々なステークスホルダーの意向が反映されます。同社にとって、川村記念美術館の美術品は「資産」です。その資産の活用について改善指摘があれば、対応しなくてはなりません。経営者の目線から考えれば、DICの判断はやむを得ないのかもしれません。
このあたりの経緯は、以下のニュースを読むとよくわかると思います。
ところで、美術館の運営が厳しい……という話をすると、意外に思う方が多いようです。美術品や博物館が所蔵する美術品や資料は貴重なものなので、高い価値があると思われているからだと思います。そこに一般の方の誤解があるように思います。そこで美術作品の価値について考えてみましょう!
美術品には、芸術的な価値と資産的な価値の二つの側面があります。美術がニュースになるのは、資産的な価値に焦点があたっていることが多く、ゴッホの絵がオークションで高く売れた、伊藤若冲の作品が発見された……といったニュースなどはこれにあたります。
美術館は多くの作品を保有していますが、これはあくまでも芸術を知らしめることが目的です。その作家・作品の美術的価値を評価し、収集・保存を続けています。したがって、保有する美術作品の資産的な価値の高低には関心がなく、一度収集した作品を売却することはめったにありません。したがって、資産的価値が高い作品を数多く所蔵していても、手元に現金が裕福にあるというわけではないのです。
それとは反対に、ギャラリーは美術品を販売し、利益を上げることを目的にしています。美術作品は「商品」であり、その商品の資産的価値の高低には常に注意を払っています。
そして、作家が亡くなると、美術品の資産的な価値が急激に高まることがあります。新作が生まれない一方で、その物故作家の人気が上昇すれば、需給バランスが崩れて一気に作品価格が跳ね上がるのです。
今回の川村記念美術館の閉館について、美術品の資産的価値、美術的価値の両面から考えてみれば、わかりやすく整理できそうです。経営的な観点から考えると、資産的価値を優先する必要があるので、赤字事業である美術館経営を止める、という選択は妥当だと考えられます。一方、美術館の閉館に反対している人は、同館の作品の美術的価値に注目しています。高い芸術性を備えた名品が観られなくなることは、彼らにとっては大きな損失です。したがってなんとか美術館の運営を継続してほしいと願うわけです。
私も美術館のPRに携わっているので、このあたりの考え方の違いを理解して仕事をしなければなりません。美術館はお金をもっているようなイメージをもたれがちですが、今回のブログで書いたとおりそうでもないのです。もしかしたら資金の豊富な美術館もあるかもしれませんね。そういう美術館があれば、ぜひご一報ください。しっかりPRをさせてもらいます!