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無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~


先日、垣谷美雨さんの小説『墓じまいラプソディ』を読みました。垣谷さんは、女性の生きづらさや人生の選択をテーマに描く社会派エンタメ小説で知られています。今回の作品も、少子化が進む時代において「結婚後の名前」や「誰が墓を継ぐのか」といった、これまで当たり前と思われてきたことが揺らぎつつある現実をユーモラスに、そして鋭く描いていました。楽しく読みながらも、多くのことを考えさせられました。

 

この本を読んだからというわけではありませんが、あらためて思うのは、「選択的夫婦別姓」がなぜこれほど長く国会で議論されながらも法案として成立しないのということです。実際、先進国で夫婦同姓を法律で義務づけているのは日本くらいだといわれています。

反対派の議員は「家族のきずながなくなる」「子どもが親と同じ姓でなければ不都合だ」「日本の戸籍制度の伝統が崩れる」などと主張していますが、どれも現実からずれているように感じます。


社会で普通に働いている女性の中には、旧姓で呼ばれたり、旧姓で仕事を続けている人が数多くいます。改姓によって生じる各種手続きの煩雑さは想像以上ですし、実際に戸惑いや不便を経験している人も多いはずです。現実問題として、改姓による「混乱」は既に社会に存在しているのです。


加えて、姓を変えるのはほとんどが女性側。私自身、結婚の際に自分の姓を変えるなんて考えもしませんでしたが、それは当時の社会通念の影響も大きいと思います。もし選択的夫婦別姓が当時から認められていたら、別姓を選んだ夫婦は少なくなかったでしょうし、私も妻がそう望むなら反対する理由はなかったと思います。

「姓が同じだから家族の絆がある」という主張についても、正直なところ納得できません。名前が同じだから絆が強まるのではなく、日々の関係性や信頼で家族は結ばれるものです。もし「同姓でないと家族は一体感を持てない」というのなら、それはむしろ形式だけに頼った“偽の絆”ではないでしょうか。


「子どもが親と姓が違うといじめられる」という指摘も耳にしますが、それも一時的な現象に過ぎないと思います。むしろ普及すれば「離婚したのか?」「片親なのか?」といった偏見を持たれることも減り、逆にいじめの理由を減らすことにつながるかもしれません。姓が違うことはいじめの“きっかけ”にすぎず、根本的な問題はもっと別のところにあるはずです。


この問題を放置することで、結婚をためらう人が増える可能性も高いでしょう。『墓じまいラプソディ』にもそうした事例が描かれていましたが、少子化対策を真剣に考えるのであれば、別姓の導入は避けて通れない課題だと思います。


そもそも「選択制」ですから、同姓を望む人はこれまで通り同姓を選べばよいのです。選択的別姓は「選べる」制度です。望む人は同姓を選べばいいだけの話で、別姓を望む人にまで「同じ姓じゃないと家族じゃない」と強要するのは、もはや時代錯誤と言わざるを得ません。


少子化や晩婚化が進む中、結婚をためらう理由のひとつが「姓の問題」であることは明らかだと思います。それでも国会は延々と議論を続けるばかりで、何十年も結論を出せない。日本社会が大きく変わっていることに気づかない議員たちの姿は、周りがみんなデジタル機器で仕事をしているのに、一人だけ紙のそろばんを弾いて“これで十分だ”と言い張っているようなものです。


令和の時代に生きる私たちは、もうアナログからデジタルへと進んでいます。なのに国会だけが「やっぱり手書きのほうが心がこもっている」と言って動かないような時代感覚に正直、あきれるやら、笑うやら――そんな気分になります。

 
 

先日のPR特別講座では、私が1年間X(旧Twitter)の投稿を続けてきた経緯や苦労についてお話ししました。今回は、その中で気づいたことを整理してみます。今後SNSを活用しようと考えている方にとって、少しでも参考になれば幸いです。

 

私のXアカウントは会社ではなく、あくまで個人として運用しています。そのため、まず大事だと思ったのは「投稿に個性を持たせること」でした。

当初はPR会社の社長という立場から、「PRの観点からニュースを斬る」というイメージで発信していました。

しかし、PRというテーマ自体に強い関心を持つ人は限られており、反応が少ないからかインプレッションなどが伸び悩みました。

さらに、ニュースをPR視点に無理に結びつけようとすると、時間も手間もかかり、不自然さが出てしまいました。

そこで方向性を見直し、「おじさん目線でニュースを斬る」というスタイルに切り替えました。

 

スタイルを変えてからは、取り上げる話題を広くしました。スポーツ、芸能、政治、事件、地域、科学、IT、企業など、多彩なジャンルについて意見や感想を発信しました。

特に話題性のあるテーマ――たとえば大谷翔平選手の活躍やお笑いの賞レース――では、インプレッション数がフォロワー数の数十倍に跳ね上がることもありました。

この経験から、人々が関心を寄せているテーマに触れることの重要性を改めて実感しました。

 

インプレッションが増えると一時的にフォロワーも増えます。ところが、しばらくするとまた減ってしまう。

これは「自分の興味のある投稿を見てフォローしたものの、その後の投稿が関心外だった」という理由だと考えています。つまり、フォロワーを増やすには「テーマの一貫性」と「発信する人柄」が大事ということです。

私のように幅広いテーマを扱う場合、よほど知名度がある論客でないとフォロワー数を増やし続けるのは難しい。一方で、発言を少し過激にすればフォロワーが伸びる可能性もあります。ただ、私の場合は会社の代表という立場もあり、偏った発信は控えてきました。その分、面白みや共感を得にくいという側面もあると感じています。

以前の講座でも触れましたが、人は「自分が言えないことを代わりに言ってくれる投稿」に共感するものです。トレンドに合わせた発信も効果的ですが、ただ流されるだけだと個性が見えにくくなります。そのため、「トレンドを踏まえつつ、自分らしさをどう出すか」がポイントになると思います。

 

私の経験では、朝の通勤前や夕方の退勤前に投稿すると、タイムラインをチェックする人が多く、インプレッションが伸びやすい印象があります。

また、誰も発信していない情報をいち早く投稿するとインプレッションは大きく伸びます。ただし、トレンドに乗る場合でもフォロワーが少ないうちは「多くの人が同じ話題を投稿している中に埋もれてしまう」こともあるので注意が必要です。

 

今回書いたことは、SNS運用においては、ある意味「当たり前」のことかもしれません。しかし、個人で発信する場合には特に、その人がどういう人物なのかが見えることが大事だと思います。

ただし、発信する内容が共感を得られなければインプレッションは伸びません。トレンドに合わせた投稿をすれば数字は伸びるかもしれませんが、その一方で自分の個性が埋もれてしまう危険もあるため、注意が必要です。

また、過激な発信で一時的に注目を集めることもできますが、長期的に見れば望ましい方法ではありません。やはり、自分に合ったやり方で地道に続けていくことが大切だと思います。


私自身も模索しながら続けてきましたが、もし読者の皆さんの中で「こんな方法もある」というアイデアがあれば、ぜひ教えていただきたいと思っています。

 
 

マクドナルドの人気商品「ハッピーセット」。子供がワクワクしながら楽しめるようにと企画されたセットですが、ここ最近、付録のおもちゃをめぐって転売問題が大きな話題となりました。

5月には「ちいかわ」のおもちゃが登場し、ファンが殺到。あっという間に品切れとなり、多くがフリマサイトに出品されました。さらに先月の「ポケモンカード」では転売対策を講じたにもかかわらず、転売目的での購入が後を絶たず、結果として食品を破棄するという「食品ロス問題」にまで発展してしまいました。

 

ハッピーセットは、元々マクドナルドのオリジナル玩具を中心に展開していました。私の子供にも小さい頃にはよく買ってあげました。子供が楽しめるセットを提供することで、家族で来店してもらう─それがハッピーセットの狙いです。

玩具メーカーにとっても、自社製品を広くPRできる絶好の機会であり、マクドナルドにとっては集客効果が期待できる。まさに「三方よし」の仕組みでした。

しかし、人気キャラクターとのコラボが始まると状況は一変します。ちいかわやポケモンといった“子供だけでなく大人も欲しがるキャラクター”になると、需要は一気に膨れ上がります。その中には「転売すれば儲かる」と考える大人も現れ、結果として本来の対象である子供に行き渡らなくなってしまうのです。

 

転売の温床として名前が挙がるメルカリなどのフリマサイトも、もともとは「不用品を必要な人に届ける」ための仕組みであり、それ自体が悪いわけではありません。ただし、需要過多の商品に関しては転売ヤーのビジネスモデルとして利用されてしまっているのも事実です。

今後、一定のモラル規制やルール作りが求められるかもしれませんが、それだけで根本的な解決につながるとは考えにくいでしょう。

 

マクドナルドが人気キャラクターとのコラボを展開するのは、当然ながら売上や話題性を狙った経営判断です。オリジナルの無名な玩具に戻せば転売問題は落ち着くかもしれませんが、同時に売上や認知度アップの機会を失うことになります。企業としては、どうしても「売れるものを企画する」方向に動くのは自然なことです。

つまり、「売れるキャラクターを使えば転売が増える」「オリジナル玩具にすれば売上が落ちる」という矛盾を抱えており、このジレンマを解決するのは容易ではありません。

 

先日、マクドナルドがハッピーセットの転売対策として、大量注文を行うアカウントの利用停止などの措置を講じることを発表しました。今回の問題の一番の原因は「転売ヤー」です。彼らの目的はほとんどが金儲けであり、子供の楽しみは二の次になってしまっています。

マクドナルドやフリマサイトだけに責任を求めても限界があり、法律的な規制や社会的なルールづくりが必要なのかもしれません。ただし、今回の措置だけで根本的な問題が解決できるとは思えません。


ハッピーセットは「子供の小さな楽しみ」の象徴です。その楽しみを大人の欲や金儲けが奪うようなことは、できる限り防いでいかなければならないでしょう。

 
 

著者・橘川徳夫 プロフィール

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中央大学経済学部卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、2001年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わってきた。

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングがクライアントに好評を博している。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

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