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無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~

更新日:2025年10月30日


私が子どもの頃、家にあったのは黒電話でした。いまではスマホが当たり前の時代になり、電話を“かける”よりも“タップする”ほうが主流になりました。

会社に入った頃、ようやくFAXが導入されたばかりで、社内に1台だけ。FAXが届くと、わざわざその部屋まで取りに行く――そんな時代もありました。あの頃はそれが最先端の通信手段だったのです。

やがて携帯電話が登場し、私も比較的早く手に入れました。当時は「そんなもの持ってどうするの?」なんて言われましたが、どこでも話せる便利さは圧倒的でした。そして今はスマホの時代。電話というより、生活を支える“情報端末”になっています。


若い人の家庭では、固定電話を持たないケースがほとんどです。「携帯があるから必要ない」――確かにその通りです。

私が若い頃、家に固定電話を引くというのは、ちょっとしたステータスでした。というのも、固定電話を設置するには申し込みをして工事を待ち、しかも「電話加入権」というものを購入する必要がありました。その加入権が十数万円もしたのですから驚きです。ですから、自分の家に電話を持てるということは、ある意味で“一人前”になった証でもありました。


最近では、会社の代表電話をなくして社員にスマホを支給する企業も増えました。とはいえ、会社にかかってくる電話の多くは営業の売り込みばかりです。中には、代表電話を持たない、あるいはあっても公開しない企業もあります。また、家庭では営業電話や詐欺まがいの電話が増え、受話器を取るのも警戒する時代になりました。


でも、正直に言うと、おじさんとしては少し心配になるのです。

「代表電話がない会社って、本当にちゃんとしているのか?」と。もちろん、時代の流れは理解していますが、固定電話には“安心感”がありました。ちゃんとした場所に会社があり、誰かがきちんと受け答えしてくれる――そんな当たり前のことが、信頼の証でもあったのです。


いまの若い人には、そんな感覚はもう古いのかもしれません。若い世代は電話で話すこと自体が苦手だといいます。スマホは“話す道具”というより、SNSやメッセージアプリでつながる“コミュニケーション端末”。もはや「電話」は“声で話すもの”という定義から離れつつあります。

それでも、おじさん世代にとって固定電話は、ただの通信手段ではなく「会社の顔」であり、「信頼の音」でもありました。とはいえ、現実には固定電話の役割は確実に減っています。スマホやチャットでやり取りができるいま、必要性が薄れていくのも仕方のないことです。


とはいえ、最近では会社にかかってくる電話のほとんどが営業の売り込みばかりです。忙しいときに限って鳴り響くものだから、正直イライラしてしまうこともあります。固定電話の利用がそうした営業電話ばかりになってしまうのであれば、なくなっていくのも仕方がないのかもしれません。

けれど、電話をかける側も、もう少し相手の状況や迷惑を考えてほしいものです。こうしたことが続けば、「固定電話はいらない」と思う人が増え、いずれはどの会社からも固定電話が消えてしまう時代が来るかもしれません。


固定電話の必要性をまだ感じているおじさんとしては、それが少し寂しく感じます。メッセージやスタンプのやり取りも便利ですが、やはり電話の良さは“その場で話せること”にあります。お互いの声を聞きながら、その瞬間に理解し合い、合意できる――そんなリアルなコミュニケーションこそ、電話ならではの魅力だと思うのです。



 
 

更新日:2025年10月24日

~引き出しの多さがPR担当者の実力になる~


PRを仕事にしていると、「PRがうまくいく人は、どんな能力を持っているのか?」という質問をよく受けます。私なりに答えるとすれば、「企画力」と「調整力」――この2つに尽きると思います。

どちらも一朝一夕に身につくものではありませんが、PRという仕事の本質を理解するうえで欠かせない力です。今回はこの2つについてお話ししたいと思います。

 

PRがうまくいくためには、単に情報を発信するだけではなく、「相手の立場に立って、興味を持ってもらう」ことが欠かせません。

しかし、同じことを繰り返していては新鮮味が薄れ、伝わる力も弱くなります。だからこそ必要なのが「企画力」――つまり、新しい考え方や切り口を見つける力です。

しかしながら、企画力は、すぐに身につくものではありません。多様な知識や経験を蓄積しておくことが大切です。幅広い分野の知識があればあるほど、アイデアを組み合わせて新しい企画を生み出すことができます。

逆に、知識が限られていれば、発想も狭くなりがちです。よく「引き出しを増やせ」と言われますが、それは単に知識を増やすだけではなく、自分が経験した成功や失敗を分析し、次に活かせるようにすることでもあります。

実際に行動し、試行錯誤して得た経験は、知識よりも深い“実践的な引き出し”になります。PRの現場では、その「中身の濃い引き出し」がものを言うのです。

 

もう一つの重要な能力が「調整力」です。

PRは一人で完結する仕事ではありません。たとえばPRイベントを実施する場合、主催者・イベント会社・芸能事務所・ゲスト・後援企業・自治体・メディアなど、さまざまな立場の関係者が関わります。

当然、それぞれの立場で意見や要望があります。どこか一方の意見だけを優先してしまうと、他の関係者に不満が残り、結果的に良いPRにはつながりません。

調整力とは、全員にとって納得のいく形を見つける力です。そのためには、相手の話を丁寧に聞き、何を求めているのかを見抜く洞察力も必要になります。

そしてこの調整力もまた、経験と知識の「引き出し」が多ければ多いほど発揮しやすくなります。過去に似たような課題を乗り越えた経験があれば、冷静に着地点を見つけることができるからです。

 

企業のPR担当者であれば、日々の業務を通じて経験と知識を積み重ね、確実に“引き出し”を増やしていくことができます。しかし現実には、人事異動や組織の事情で長期間PR業務を担当し続けることは難しいのが実情です。ようやく経験が蓄積されてきた頃に部署が変わる、というケースも珍しくありません。

その点、PR会社は常にPR業務を専門としており、さまざまな業界・案件を通じて経験値を高めています。個人だけでなく、会社全体としてノウハウや知見を共有しながら成長していくため、PRの蓄積量が圧倒的に違います。

企業側に専任の担当者がいない場合や、担当者を育成する時間的余裕がない場合には、PR会社に依頼するという選択が、結果的にもっとも効率的で効果的だといえるでしょう。

PR会社は、単に広報活動を代行する存在ではありません。客観的な視点から企業の強みや課題を整理し、メディアや生活者に届くストーリーへと再構築する“パートナー”です。企画力と調整力――この2つを継続的に磨き続けているのが、PR会社の最大の強みでもあります。

 
 

~原子力発電の安全性──「100%安全」という幻想とPRの課題


前回のコラムでは、日本の原子力政策についてお話ししました。今回は、その中でも最も大きな課題である「安全性」の問題に焦点を当てたいと思います。

 

東日本大震災で発生した福島第一原子力発電所の事故は、日本人の原子力に対する意識を大きく変えました。想定外の大津波により全電源が喪失し、制御不能になった現実を目の当たりにした国民にとって、「安全だと言われても信じられない」という感情は当然のことだと思います。

津波の想定が7メートルか8メートルだったかという議論もありましたが、結局10メートルを超える津波が来る可能性をゼロにはできません。もし100%の安全を追求すれば、極端な例では20メートルの防波堤を設置するといった現実離れした話にもなりかねません。

 

原子力発電所は「絶対に事故を起こさない」という思想で設計されています。しかし、どんなに安全対策を講じても、100%安全を保証することは不可能です。安全性の判断は人それぞれの感覚や許容度に左右され、さらに対策を強化すればするほどコストが膨らみ、電気料金にも影響します。

安全論議は終わりのない議論になりやすく、PRで安全性を訴えても国民から理解を得るのは難しいのが現実です。個人的には日本の原子力発電所は十分に安全だと思いますが、それを証明するのは“悪魔の証明”のようなもので、容易ではありません。

 

ここで大きな問題なのが、電力会社の体質です。長年「原子力は安全だ」と主張してきたため、今さら「事故は起こる」という前提を受け入れにくい状況があります。結果として、小さな事故やトラブルを公表すれば「安全神話」が崩れるという恐れから、隠す傾向が生まれやすいのです。

この「事故は起こらない」という前提のままでは、航空機の安全思想のように「万一の事故を前提に被害を最小限に抑える設計」へと発想を転換することができません。これこそが、安全性向上を阻む大きな要因の一つです。

 

忘れてはならないのは、原子力発電所は稼働していなくても安全である必要があるということです。そのためには常に高い専門性を持つ技術者が不可欠です。

しかし、安全性ばかりを強調して「原子力技術には未来がない」という空気が広がれば、原子力工学を学ぶ学生は減少し、将来的に技術者不足が深刻化します。技術者が減れば、安全性を維持するための監視・保守体制も弱まり、かえって安全性の低下を招くという、由々しき事態に発展しかねません。

反対派は原子力そのものに異を唱える一方で、この「技術者不足による安全性リスク」についてはほとんど触れません。しかし、安全の観点からも人材確保の重要性を国民に理解してもらうことは、原子力のPRとして欠かせないテーマです。

 

私が有効だと思うのは、航空機の安全思想にならうことです。つまり、「事故はゼロにはできない」という前提に立ち、万一の事故時には被害を最小限に抑える設計と運用を徹底する考え方です。

小さなトラブルも隠さず報告し、その原因を徹底的に分析して改善につなげる。このプロセスを繰り返すことで、設備はより安全になります。重要なのは、その報告に対して個人の責任を過度に追及せず、改善に重点を置くことです。

もちろん、事故が起きても原子炉が即時に停止し、放射能が漏れないようにする安全設計は継続して強化しなければなりません。

 

「事故は起こる可能性がある」という考え方を国民に受け入れてもらうのは簡単ではありません。しかし、現状の設備や点検・修繕体制は大事故を防ぐためのものであり、小さなトラブルを乗り越えるたびに安全性は高まっていることを丁寧に伝える必要があります。

加えて、「安全性の維持には人材が不可欠であり、その確保もまた安全対策の一部である」という視点を共有することが大切です。この理解が広がれば、原子力の安全性を高めるPRにもつながるはずです。

 
 

著者・橘川徳夫 プロフィール

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中央大学経済学部卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、2001年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わってきた。

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングがクライアントに好評を博している。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

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