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無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~

これまで「実践PR講座」と題して、最新のPR事情を踏まえた実践的なPR戦略についてお話ししてきました。この講座もいよいよまとめの段階に入ります。今回は、これまでの内容を踏まえながら、どのようにPR戦略を考えるべきかについて整理したいと思います。


PRの戦略を考える際、私は「5W1H」の視点が重要だと考えています。特に、PR活動を行う際に最初に考えるべきことは、「誰に」「何を」「なぜ」伝えるのかという点です。

私はPRを「知らないことを、知らない人に伝えること」と定義しています。そのため、

  • What(何を):ターゲットが知らない情報は何か?

  • Who(誰が):その情報を知らないのは誰か?

  • Why(なぜ):なぜその情報を知らないのか?

この3つの要素を整理することが、PR戦略の土台になります。


PR会社がアドバイスや提案をすることはできますが、最終的には発信側が「誰に何を伝えたいのか」を明確にしなければなりません。「多くの人に、できるだけ多くの情報を届けたい」という相談を受けることもありますが、ターゲットや伝える内容を絞らないと効果的なPRにはなりません。


ただし、「一つの話題だけに絞る必要はない」という点も重要です。インターネットが普及する以前は、一つの話題を広く伝えることが主流でしたが、現在はターゲットを細かくセグメント化し、それぞれに適した内容を伝えることが可能になっています。


例えば、野球をテーマに考えてみましょう。

ドジャースの大谷翔平選手がメジャーリーグで活躍していることは広く知られていますが、野球のルールを知らない人は多くいます。また、日本のプロ野球ファンでも、メジャーリーグには興味がない人もいます。このように、「何を知らないか」は人によって異なります。


では、なぜターゲットはその情報を知らないのでしょうか?

  • 子供の場合 → そもそも野球をしたことがないから、ルールを知らない。 → 解決策:選手が直接指導する少年野球教室を開催する。

  • 女性の場合 → 野球場に行ったことがなく、観戦の魅力を知らない。 → 解決策:球場内にネイルサロンを設置し、楽しみながら観戦できる環境を作る。

  • 特定のチームのファンではない人 → 強いチームに興味があるが、特に応援しているチームがない。 → 解決策:選手補強やチームの躍進をアピールする。


このように、一つのテーマに対して異なるターゲットごとにPR戦略を立てることが、現代のPRにおいて重要な視点となります。

次回は、3つの要素の中でも特に「Why(なぜ)」に焦点を当て、さらに深掘りしていきます。

 
 

毎年2月になると日米双方でプロ野球のキャンプが始まり、テレビなどでも野球の話題が一気に増えてきますね。


特に昨年は、大谷翔平選手がメジャーリーグで大活躍し、ドジャースがワールドシリーズを制覇。大谷選手自身もMVPを獲得するという素晴らしいシーズンでした。さらに、山本由伸投手、今永昇太投手、菊池雄星投手、鈴木誠也選手など、多くの日本人選手がメジャーで活躍したことで、日本のプロ野球よりもメジャーリーグのニュースの方が多かったように感じます。


今では、日本人選手がメジャーでプレーするのは当たり前の光景になりましたが、その道を切り開いたのが野茂英雄選手です。私にとっても野茂選手は特別な存在となっています。なぜなら、30年近く前にドジャースタジアムで実際に彼のピッチングを観戦したことがあるからです。


当時、野茂選手のメジャー挑戦には賛否両論がありました。「本当に通用するのか?」という声もありましたが、彼はトルネード投法で三振を次々に奪い、見事に実力を証明しました。その活躍は日本でも大きく報道され、一躍スター選手に。ちょうどロサンゼルスに行く機会があったので、「これは生で見るしかない!」とドジャースタジアムで観戦することにしました。


しかし、登板日を計算してチケットを取ったものの、予定がずれてしまい観戦できず……。当時はインターネットもなかったので、情報を集めるのも一苦労でした。それでも諦めずにもう一度チケットを取って(当時は今より安かったのもあります。)、ついに野茂選手の登板試合を観ることができました。結果は残念ながら敗戦でしたが、メジャーリーグの雰囲気を存分に味わうことができました。


その後、イチロー選手や松井秀喜選手をはじめ、日本のスター選手たちが次々と海を渡り、メジャーに挑戦しました。成功する選手もいれば、思うように活躍できなかった選手もいますが、彼らの挑戦は今もなお続いています。今年も、巨人の菅野智之投手、ロッテの佐々木朗希投手、中日の小笠原慎之介投手、阪神の青柳晃洋投手(マイナー契約)がメジャーリーグへの移籍を果たしました。応援するチームの選手が海を渡るのは寂しいものですが(ドラゴンズファンの私としては、小笠原投手にはもう少し中日で頑張ってほしかった…)、やはりメジャーで活躍する日本人選手を見るのはワクワクしますね。


一方で、移籍のあり方については議論が続いています。佐々木選手のポスティング問題や、上沢直之選手のように移籍を巡ってファンから批判の声が上がるケースもあります。プロ野球選手のキャリアの選択肢が広がったのは良いことですが、今後は選手とファンが双方納得できるようなルール作りが必要になってくるかもしれません。


選手が夢を叶え、ファンも納得できるシステムが整えば、日米の野球人気がさらに高まり、もっと盛り上がるはずです。これからも日本人メジャーリーガーの活躍に注目しながら、シーズン開幕を楽しみに待ちたいですね!

 
 

これまで、インターネットが主流となる現代におけるPR戦略の課題についてお話ししてきました。今回は、B2B(企業間取引)のPRについて考えてみたいと思います。


B2Bビジネスを展開する企業からPRの相談を受けることがありますが、正直なところ、PRが本当に効果的を考えると受注するかの判断はとても難しいです。B2Bは取引先が明確であるため、一見するとPRがしやすいように思えます。


しかし、実際にはターゲットを絞ったPRが難しいという問題があります。PRの主要な手段となるマスメディアは広範囲に情報を届ける性質があり、特定の企業や業界だけに情報を届けるのは容易ではありません。たとえマスメディアで紹介されたとしても、ターゲット企業に確実に届くとは限らず、費用対効果の面でも疑問が残ります。


また、現代のメディアは特定の趣味や分野に特化したものが多く、スポーツなら野球やサッカー、文化ならアニメや漫画など、細分化が進んでいます。これはB2C(一般消費者向けビジネス)を前提としたメディアの特徴であり、B2B向けの情報発信とは性質が異なります。企業の情報収集は、個々の担当者が取得し、それを社内で共有する形が一般的です。


したがって、企業全体に情報を届けるのではなく、個々の担当者に対してアプローチする必要があります。しかし、企業内には経営者、営業担当、技術者、新入社員など、さまざまな立場の人がおり、関心を持つ情報も異なります。


このような状況を踏まえると、B2BのPRよりも営業活動を強化した方が成果につながりやすい場合があります。ターゲットが明確であれば、マッチングサイトや営業代行サービスを利用する、もしくは営業リストを作成して直接アプローチするなどの方法が有効です。


では、B2BのPRは不要なのでしょうか?


決してそうではありません。例えば、大手機械メーカーのテレビCMを見かけることがあります。これは、製品の認知度を高めるだけでなく、「この会社は大企業だから安心して取引できる」というブランドイメージを形成する目的もあります。また、新卒採用活動の一環として企業名を広める意図も含まれています。


B2B企業は、知っている人にはよく知られている一方で、知らない人には全く認知されていないことが多いため、認知度向上のためのPRは重要です。特に、予算の関係でマスメディアへの広告が難しい場合でも、業界紙や専門誌での紹介を狙うことで、ターゲットに近い層へアプローチできます。業界紙・専門誌での掲載が話題になれば、次のステップとして大手メディアに取り上げられる可能性も高まります。


また、自社がメディアで紹介された記事を営業資料として活用する企業も多く見られます。メディアに掲載されることで信頼性が向上し、営業活動を後押しする効果も期待できます。


B2BだからPRが難しいと決めつけず、どのようなPRが効果的かを考え、戦略的に取り組むことが重要です。PRの工夫次第で、企業のブランド力を高め、営業活動にも好影響を与えることができるでしょう。

 

 
 

著者・橘川徳夫 プロフィール

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中央大学経済学部卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、2001年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わってきた。

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングがクライアントに好評を博している。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

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