先日、「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」がノーベル平和賞を受賞したというニュースがありました。ノーベル賞には、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、そして経済学の6つの分野があります。日本人はこれまでに5つの分野で受賞しており、とくに物理学と化学での受賞が目立ちます。平和賞に関しては、佐藤栄作元首相以来、実に50年ぶりの受賞です。
さて、この6つの分野の中で、日本人が唯一まだ受賞していないのが「ノーベル経済学賞」です。今年は、マサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授とサイモン・ジョンソン教授、それにシカゴ大学のジェームズ・ロビンソン教授が受賞しました。なぜ日本人がこの分野で受賞していないのか、私なりに考えたところ、ひとつの理由は日本の教育制度にあるのではないかと思います。
日本では、経済学部が文系に分類されています。私自身、経済学部を卒業しましたが、入学試験で数学は必須ではなく、選択科目でした。入学後、経済学を学ぶうちに「数学の知識が必須だ」と強く感じるようになり、数学や統計学を多少勉強することになりました。しかし、学部内には数学を苦手とする学生も多く、苦戦したり、なかには一切数学などの科目に触れることなく卒業していった人も多いでしょう。私自身の経験から考えると、経済学は文系・理系の両方の知識を必要とする学問だったと思います。
実際、ノーベル経済学賞の受賞者を見ると、数学や統計学、計算機科学、心理学など理系のバックグラウンドを持つ方が多いことがわかります。もちろん、文系出身者の受賞例もありますが、経済学や経営学の分野では、理系の知識を持つ研究者が多くの成果を上げていることは事実です。
日本の教育システムでは、高校2年生から文理選択が行われるところもあり、文系を選んだ学生は、経済学を修めるための土台となる数学の基礎知識が欠けている状態で授業に臨まなければなりません。これでは、経済学の本質に深く触れるのは難しいでしょう。
一方、欧米の大学では、入学後に専攻を決めるため、数学を学んだ学生が経済や経営に興味を持ち、その分野で成果を出すことができる環境が整っています。こうした違いが、日本人がノーベル経済学賞を取れない背景の一因になっているのではないでしょうか。
高度なデジタル社会に突入した現代では、データ分析の重要性がますます高まっています。経済学の研究にも、数学や統計学の知識がますます必要となってくるでしょう。日本人が毎年ノーベル賞を受賞するたびに誇らしい気持ちになりますが、経済学賞だけは日本人の名前が挙がらない現状は、少し寂しいと感じるのは私だけでしょうか。
ただ、明るいニュースもあります。プリンストン大学の清滝信宏教授が、ノーベル経済学賞の候補者として名前が挙がっています。日本の大学での研究ではない点が少し残念ですが、いつか日本人初のノーベル経済学賞受賞者が誕生する日を楽しみにしています。