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無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~

~原子力発電の安全性──「100%安全」という幻想とPRの課題


前回のコラムでは、日本の原子力政策についてお話ししました。今回は、その中でも最も大きな課題である「安全性」の問題に焦点を当てたいと思います。

 

東日本大震災で発生した福島第一原子力発電所の事故は、日本人の原子力に対する意識を大きく変えました。想定外の大津波により全電源が喪失し、制御不能になった現実を目の当たりにした国民にとって、「安全だと言われても信じられない」という感情は当然のことだと思います。

津波の想定が7メートルか8メートルだったかという議論もありましたが、結局10メートルを超える津波が来る可能性をゼロにはできません。もし100%の安全を追求すれば、極端な例では20メートルの防波堤を設置するといった現実離れした話にもなりかねません。

 

原子力発電所は「絶対に事故を起こさない」という思想で設計されています。しかし、どんなに安全対策を講じても、100%安全を保証することは不可能です。安全性の判断は人それぞれの感覚や許容度に左右され、さらに対策を強化すればするほどコストが膨らみ、電気料金にも影響します。

安全論議は終わりのない議論になりやすく、PRで安全性を訴えても国民から理解を得るのは難しいのが現実です。個人的には日本の原子力発電所は十分に安全だと思いますが、それを証明するのは“悪魔の証明”のようなもので、容易ではありません。

 

ここで大きな問題なのが、電力会社の体質です。長年「原子力は安全だ」と主張してきたため、今さら「事故は起こる」という前提を受け入れにくい状況があります。結果として、小さな事故やトラブルを公表すれば「安全神話」が崩れるという恐れから、隠す傾向が生まれやすいのです。

この「事故は起こらない」という前提のままでは、航空機の安全思想のように「万一の事故を前提に被害を最小限に抑える設計」へと発想を転換することができません。これこそが、安全性向上を阻む大きな要因の一つです。

 

忘れてはならないのは、原子力発電所は稼働していなくても安全である必要があるということです。そのためには常に高い専門性を持つ技術者が不可欠です。

しかし、安全性ばかりを強調して「原子力技術には未来がない」という空気が広がれば、原子力工学を学ぶ学生は減少し、将来的に技術者不足が深刻化します。技術者が減れば、安全性を維持するための監視・保守体制も弱まり、かえって安全性の低下を招くという、由々しき事態に発展しかねません。

反対派は原子力そのものに異を唱える一方で、この「技術者不足による安全性リスク」についてはほとんど触れません。しかし、安全の観点からも人材確保の重要性を国民に理解してもらうことは、原子力のPRとして欠かせないテーマです。

 

私が有効だと思うのは、航空機の安全思想にならうことです。つまり、「事故はゼロにはできない」という前提に立ち、万一の事故時には被害を最小限に抑える設計と運用を徹底する考え方です。

小さなトラブルも隠さず報告し、その原因を徹底的に分析して改善につなげる。このプロセスを繰り返すことで、設備はより安全になります。重要なのは、その報告に対して個人の責任を過度に追及せず、改善に重点を置くことです。

もちろん、事故が起きても原子炉が即時に停止し、放射能が漏れないようにする安全設計は継続して強化しなければなりません。

 

「事故は起こる可能性がある」という考え方を国民に受け入れてもらうのは簡単ではありません。しかし、現状の設備や点検・修繕体制は大事故を防ぐためのものであり、小さなトラブルを乗り越えるたびに安全性は高まっていることを丁寧に伝える必要があります。

加えて、「安全性の維持には人材が不可欠であり、その確保もまた安全対策の一部である」という視点を共有することが大切です。この理解が広がれば、原子力の安全性を高めるPRにもつながるはずです。

 
 

昨年、還暦を迎えたときの気持ちは、このブログでも紹介しました。

 

1歳年を重ねたからといって、気持ちが大きく変わることはありません。むしろ自分としては、まだ30代くらいの感覚でいるつもりです。さすがに20代と言うと大げさですが、新しいこと(最近ならAIなど)に挑戦する気力もあるし、新しい製品やサービス、流行りものの情報にも常に目を光らせています。

もちろん、好き嫌いはあります。興味のないことには全く見向きもしない一方で、最近の若い人のほうがむしろ好き嫌いがはっきりしている気もします。

 

このブログでも書いたように、最近は大学生など若い世代と話す機会が増えましたが、特に「話が合わない」と感じたことはありません。話が合うかどうかは年齢ではなく、その人の人柄や話題の選び方だと思うからです。自分で言うのもなんですが、コミュニケーションにはちょっと自信があります。相手が誰であっても、会話を広げて盛り上げることができる!これは長年の経験のたまものかもしれません。

 

若い人たちと話していて思うのは、コミュニケーションに消極的な人が多いということです。どうしても「受け身」になりがちで、相手の話題に応じるだけになると、自分の話ができなくなります。そうすると「話が合わない」と感じて、ますますコミュニケーションが苦手になるという悪循環に陥るのではないでしょうか。

私はいろいろなことに興味を持つようにしています。だからこそ、相手の関心ごとを聞き出して、その話題を広げることを心がけています。知らないことなら質問して教えてもらえばいいし、そうすることで会話は自然に膨らんでいきます。もしかすると、こういう姿勢が「自分はまだ若い」という感覚につながっているのかもしれません。

 

とはいえ、若い人に勝とうなんて気持ちは全くありません。体力ではすでに完敗ですし、新しい感覚に対して鈍っている自覚もあります。

ただ、年を取るのは悪いことばかりではありません。先日映画「国宝」を観に行ったとき、シニア割で入場できたのです。正直、シニア割は65歳からだと思っていたので「え、60歳から?」と驚きつつ、ちょっと得をした気分になりました。

 

ところが、その後ふと我に返りました。「シニア割を喜んで使ってる時点で、もう若くないんじゃないか?」と。気持ちは30代のつもりなのに、財布の中身はしっかりシニア扱い。なんとも複雑です。

でもまあ、年を取るのも悪くありません。せっかくなら、その「シニア特典」をフル活用してやろうじゃないか。そんなふうに開き直ってしまうのも、やっぱりおじさんだからでしょうね(笑)。


 
 

久しぶりに映画館で映画を観ました。観たのは、歌舞伎の世界を描いた作品「国宝」。3時間近い上映時間に身構えていたものの、観始めると引き込まれ、最後まで時間を気にせずに楽しむことができました。(終わってみればやはり長かったのですが…)

 

本作は「芸は血筋か才能か」というテーマを軸に、歌舞伎の厳しい世界を描いています。主演の吉沢亮さん、共演の横浜流星さんの歌舞伎演技は高い評価を集めていますが、俳優が役として歌舞伎を演じることと、本職の歌舞伎役者が日々舞台に立ち続けることは全く次元の違う営みです。比較そのものに意味はないと感じました。


歌舞伎の世界は血筋を重んじます。名跡を継ぐ者には大きなプレッシャーがのしかかり、芸を磨いて世間に認めてもらわなければなりません。反対に、血縁がなく才能があっても報われないこともある。その矛盾や葛藤を、この映画は見事に描き出していました。

私のよく知る落語の世界では血縁があっても芸が伴わなければ評価されません。その点で、歌舞伎はより厳しい伝統の中で芸を継承する世界だと感じました。

 

この映画は派手な宣伝があったわけではありません。それでも「観た人の評価が次の観客を呼び、話題が広がる」という流れで動員が増えました。まさに口コミで広がる理想的なPRです。

ただし、その前提はあくまで「コンテンツそのものが良いこと」。いくらPRを工夫しても、中身が伴わなければ話題にはなりません。結局、PRの力を最大化できるかどうかはコンテンツ次第なのだと改めて感じました。

 

一方で、本作を観ながら「芸とコンプライアンスは必ずしも相性が良くない」とも感じました。芸には表現者の生き方や人生観がにじみ出ます。それを社会規範の名のもとに一律に縛ってしまうと、芸の自由さや表現の深みが失われる危険性があります。(もちろん犯罪行為を肯定するわけではありません。)

近年、コンプライアンスは企業活動やPRにおいて避けられない前提条件になっています。しかし、その意識が高まることで芸術や文化の表現が制約され、結果的にPRすべき「魅力あるコンテンツ」そのものが生まれにくくなるかもしれません。

 

映画「国宝」を観て改めて思ったのは、PRの成否は結局コンテンツの力にかかっているということ。そして同時に、コンプライアンスが強く求められる時代においては、その制約がコンテンツづくり、ひいてはPRそのものに影を落とす可能性があるということです。今後のPRにとって、この両立は大きな課題になっていくのだと強く感じました。

 

 

 
 

著者・橘川徳夫 プロフィール

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中央大学経済学部卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、2001年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わってきた。

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングがクライアントに好評を博している。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

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