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無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~


気がつけば、今年も年の瀬。街の空気もどこか慌ただしくなり、いよいよ大掃除の季節がやってきました。

 

毎年思うのですが、大掃除ほど“面倒くさい”という気持ちと、“やらなきゃ”という気持ちが同居する行事はありません。普段、家事のほとんどを妻に任せているので、年末くらいは頑張らないと――とは思うものの、妻から「絶対やって」と強く言われているわけではないですが、無言のプレッシャーに義務感が生じてなぜか毎年自分から率先して掃除をしています。

 

とはいえ、子どもの頃から“年末の大掃除だけは必ず手伝う”という習慣があったので、身体のどこかに年末掃除のスイッチが備わっているのかもしれません。散らかった机も、この日ばかりは一気に片付けます。片付け終わると気分がスッキリし、「来年こそはキレイに保とう」と毎年のように誓うのですが、この誓いが翌年につながった試しはありません。

 

私は決して“きれい好き”ではありませんが、“汚いのはイヤ”なタイプです。大掃除では、例年どおり、コンロや換気扇といった油汚れゾーン、そして外窓のような高所作業が私の担当になります。強力な洗剤もあるのですが、結局は力任せにゴシゴシ磨くのが一番きれいになる気がして、気づけば本気モードでピカピカにしてしまいます。

 

問題は年末の忙しさです。仕事はバタバタするし、忘年会もありますし、前日飲みすぎた結果、「今日はちょっと無理かも」ということもしばしばです。「計画的にやろう」と毎年思うのですが、12月はなぜか思い通りに行かない月です。

 

それでも、大掃除を終えたときの達成感は格別です。一年分のホコリを落とすと、心まで軽くなるような感覚があって、「今年もちゃんと区切りをつけられたな」と思えるのです。

私にとって大掃除は、“家事”というより、一年の終わりを自分なりに整えるための儀式なのかもしれません。

さて、もうすぐ今年も締めくくり。まだ手をつけていない場所がいくつもありますが、そろそろ覚悟を決めて取りかからないといけません。今年のホコリは、今年のうちに――。おじさんの年末は、これからが本番です。

 

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 ~言葉ひとつで伝わり方が変わる~


最近、営業メールや営業電話で「協業のご提案です」「業務提携のお願いです」といった連絡をよく受けます。しかし、そのほとんどが実際には単なる売込みです。

メールの中身を読んでみると、「自社のサービスを御社でも販売してもらえないか」「自社の製品を使ってもらえないか」という内容が大半です。これでは「協業」でも「業務提携」でもなく、一方的な営業依頼にすぎません。

 

弊社はPR会社です。そのため、Web制作会社や動画制作会社、デザイン会社などから「協業しませんか」という提案をいただくことはよくあります。「PR活動と連携すれば、より効果的なプロモーションができる」「クライアントにより良いサービスを提供できる」という意図自体は理解できます。

確かに、PR会社と制作会社は親和性が高く、協業が成り立ちやすい業界です。しかしながら、協業とは本来“双方に利益がある関係”でなければ成立しないものです。

もしこちらがサービスを採用し、一緒に営業を行うことになれば、それは当然「協業」の一形態です。ですが、最初の段階で“協業”を名目にした売込みをされても、それはあくまで採用前の営業活動であって、協業とは呼べません。

 

多くの「協業提案」は、結局のところ「自社の商品を使ってほしい」「自社のサービスを売ってほしい」というお願いに過ぎません。こちら側のメリットが最初から提示されていない限り、それは協業ではなく売込みの延長線上です。

営業する側にとっては「新しい売上」が生まれますが、提案を受ける側にとっては「新しい手間」が増えるだけという構図になりがちです。PR会社のように、常にクライアント案件に追われている立場からすれば、“手間がかかるだけの協業”は、メリットがないのです。

協業を名乗る以上、少なくとも

  • 双方に利益がある提案

  • 互いのクライアントを紹介し合える関係性

  • または、資本・人材交流など長期的な視野のある連携


    が前提にあるべきです。

 

正直なところ、「協業したい」と言うからには、最初に“こちらが動きたくなる理由”を見せてもらわなければ、関係は始まりません。

それは、派手な「エサ」を提示するという意味ではなく、誠意を見せることです。たとえば、最初に「御社のサービスを弊社のお客様に提案したい」「この分野で一緒に成功事例を作りたい」と具体的に話してくれる企業には、自然と信頼が生まれます。

一方、「まずはお話だけでも」「御社のクライアントに紹介してもらえませんか」というアプローチでは、信頼どころか、むしろ警戒されてしまいます。

協業を名乗るなら、「自分たちは御社に何を提供できるのか」を先に提示すべきです。そうすれば、相手も「ではこちらも何ができるか考えよう」と思えるのです。

 

これまで多くの企業から協業提案をいただきましたが、実際に長く続いているのは、ごく少数の本当に信頼できる会社だけです。そこには、ビジネスとしての利益だけでなく、「お互いのサービスを高め合う姿勢」がありました。

協業や業務提携という言葉は、安易に使うべきではありません。それは単なる営業手段ではなく、“信頼の証”としての関係性を築く行為だからです。

はっきりと「営業です」「このサービスを一緒に提案できませんか」と言ってもらった方が、お互いに誤解もなく、時間の無駄にもなりません。“協業”を口にするなら、まずはその言葉に見合うだけの姿勢と覚悟が必要なのだと思います。

 

協業とは、営業の延長線ではなく、信頼関係の先に生まれる共同の仕組みです。相手に何を提供できるかを真摯に考え、互いに成長できる関係を築く――。それが、本来あるべきビジネスPRの第一歩ではないでしょうか。

 
 

電力需要の急増と原子力PRの新たな課題─「不足だから原発」では伝わらない


前回のコラムで、原子力発電所が地方自治体に経済的な恩恵をもたらしている現実についてお話ししました。今回は、カーボンニュートラルの推進と並んで、原子力発電が再び必要とされる理由のひとつである「電力需要の増大」について考えてみたいと思います。

 

私が電力会社に勤めていたころは、「日本の電力需要は今後大きくは伸びない」というのが一般的な見方でした。理由は明確で、家電製品の省エネ化が進んでいたこと、そして日本の人口減少が予測されていたからです。

ところが、時代は予想を超えるスピードで変化しました。インターネットの発達により、あらゆる産業がデジタル化し、それに伴ってデータセンターの需要が急増しました。特に近年は、AI(人工知能)の進化が電力事情を一変させつつあります。AIの学習や運用には膨大な電力を必要とするため、世界的に「データセンターが電力を食い尽くす」とさえ言われています。

さらに、自動車産業でもエネルギー転換が進んでおり、電気自動車(EV)が普及すれば、家庭や都市部での電力需要は確実に上昇します。こうして電力の需要構造が変化する中、「電気が足りない」という現実が目前に迫りつつあります。

 

では、その電力をどう確保すればよいのでしょうか。カーボンニュートラルの観点からは、石炭や石油といった化石燃料に頼ることはできず、再生可能エネルギーもまだ十分に普及していません。結果として、「では原子力で補うしかない」というのが政府の現状の考え方のようです。結果として、「では原子力で補うしかない」というのが政府の現状の考え方のようです。

ただし、この説明をそのままPRのメッセージにしても、国民の共感は得られにくいと感じます。「電力が足りないから原子力を使う」という論理は、選択肢がないから仕方なく使うという印象を与えてしまうからです。PRとしては、ストーリー性に欠け、未来への希望や納得感を伝えにくいのです。

 

原子力発電の必要性を理解してもらうには、「不足だから仕方なく使う」のではなく、どう使えば社会に価値を生むかという視点が欠かせません。

たとえば、データセンターと原子力発電所を同じ地域に隣接させ、地方の産業活性化を図るような構想があれば、電力ロスを減らし、地域雇用を生むという一石二鳥の効果が期待できます。これは単なるエネルギー供給ではなく、「地方創生と技術革新を結びつけたPRストーリー」として描ける可能性があります。

しかし現行の法律では、電力会社が特定の企業や施設に優先的に電力を供給することは禁止されています。電力供給の公平性を保つための規制ですが、こうした仕組みが柔軟にならなければ、新しいエネルギー戦略の展開は難しいのが現実です。

 

結局のところ、原子力発電を効果的にPRしていくには、単独での訴求には限界があります。エネルギー政策と産業政策を一体的に進め、その中で原子力の役割を位置づけることが重要です。

「電力不足だから原発」ではなく、「電力を支えることで、産業と地域を強くする」のような社会全体の発展と結びつけて語ることができなければ、原子力のPRは浸透しません。

 

原子力に対するPRの目的は、単に理解を得ることではなく、納得を得ることにあります。人々が「これなら必要だ」と思えるストーリーを描くことができなければ、どんなに正しい理屈でも支持は広がりません。

今後、AIやEVなどの新たなテクノロジーが進む中で、電力は確実に「社会の血液」としての重要性を増していきます。そのエネルギーをどう供給し、どう未来に活かすのかという課題に応えられること訴えなければ、原子力のPRが本来果たすべき役割があるのだと思います。

 
 

著者・橘川徳夫 プロフィール

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中央大学経済学部卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、2001年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わってきた。

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングがクライアントに好評を博している。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

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